隣の湯船にいたワニ男。
しばらくは妻を眺めているだけでした。
しかし。
「よいしょっと」
男はそう言いながら、隣の湯船から体を出すと…何と我々の湯船に、入って来ました。
「えっ…?」
思わず、自分も妻も、目が点です。
妻はあまりのことに、つい笑ってしまいました。
あまりの状況を前にすると、人間、こうなってしまうものなのかもしれません。
「はぁぁ…」
男はそう言いながら、同じ湯船でくつろぎます。
行ったことは分かるかもしれませんが、この一つ一つの湯船は、そんなに広くありません。
普通の家の湯船と、そこまで大差もありません。
ある意味、家の風呂に、一緒に入っているような…。
妻を同じ家で共有しているような…。
そんな感覚に陥りました。
妻の体勢はこのままですので、胸も局部も、すべてが目の前でまる見えで。
今さら隠すのも不自然なのか、すべてを晒しっぱなしでした。
男はさらに気をよくしたのか、セクハラな質問が飛び出しました。
「奥さん、胸キレイですねぇ。
いい乳首してるし」
以前に温泉でそれに類することを言われたことはあるのですが、ここまで目の前で言われたのははじめてです。
「もしかしてオッパイ出たりします?(笑)」
そんなようなことまで言われました。
たぶん何を言っても怒らない二人だと思われたんだと思います。
妻も返す言葉も出ず、ただ苦笑いするしかありませんでした。
ただ、その突き刺すような視線がつらかったのでしょう。
それ逃れるように、妻は一人、前に向く体勢になりました。
しかし。
ほっと安心したのもつかの間…。
男も、追うように体勢を変え始めたのです…。
「いい景色ですよね」
男はそう言いながら、妻の真横に来て、同じ体勢をしました。
まさか。
そこまでやるとは。
あまりの状況に、固まります。
こんなとき、どうしていいのか分かりませんでした。
あいだに入って守ろうにも、すでにそんなスキマはありません。
「この温泉、気持ちいいですよね?」
男は妻に話しかけ続けます。
自分のことはまるで眼中にないように、妻とだけの空間を作っていました。
「あ、はぁ…。
まぁ…」
無視するわけにも行かず、妻はそれっぽく会話をしていました。
全裸で、真横で入浴している姿。
この状態を見た人間がいたら、間違いなく、彼らが夫婦で、後ろにいる自分の方がワニだと思われるでしょう。
しかし今さらながらに、会話に入ることもできず、指をくわえて、見続けることしかできませんでした。
「あ~…」
しばらくすると、妻の反応があまりなくなったからか、男が静かになりました。
景色に集中しているのか…?思わずそう思いました。
しかし…。
妻が何か、モジモジしています。
そのときに気づきました。
まさか…!お湯の中なのでよく見えませんが、男と体が当たっているのでは…!?そう思いつつも、もちろん確証はありません。
少なくともこの状態を許してしまっているのに、
「触れるな!離れろ!」
なんて言えません。
いや…触れているなんてことはないだろう…。
まさかなぁ…。
そう願いつつ、ただそれを見ていました。
ただ途中から、男の息が少し荒くなったのと、右手がお湯の中に入ったのだけ分かりました。
少しだけ嫌な予感はしましたが、言葉にはできません。
不安に思いつつも、せめて夫としての所有を示したかったため、自分は妻の足を触っていました。
すべてが分かったのは、最終的に妻と別の湯船にうつったあとからでした。
そのとき。
男は話しながら、妻の足に、自分の足をすりつけていたそうです。
妻も最初のうちは、近いのだししょうがないかな、それを言うのも雰囲気を壊すかな、と思って言わなかったとか。
すると男は、どんどん調子に乗ってきたようでした。
やんわりと当たっていた足が、少しずつ少しずつ動き、ぐいっと押しつけられてきたそうです。
ふとももだけでなく、お尻にこするように当たってきた…と。
妻は少し気持ち悪かったようですが、言うタイミングを逃し、何も言えなかったそうです。
でも、それだけではありませんでした。
しばらくすると、
「明らかに足ではないのが当たってきた」
と。
まさか…?男性器まで当てられたのか…?
「固かった?」
「…分からないけど、固かったかも…。
…でも、手かもしれない」
でも…。
そう思いつつも、いまいち納得できない自分がいました。
「もしかして…アレかな…?」
自分がそう言うと、妻は静かに言いました。
「そう…かも…」
返事が心に刺さりました。
とにかく呼吸を整えて言います。
「大きかった?」
自分が聞くと、妻はしばらくためらいつつ、言いました。
「…うん…」
ショックでした。
この
「大きい」
は、間違いなく、自分と比べてだと思います。
自分も自信がない方ではなかったのですが、男のは、それ以上だったと…。
男は最後まで自分に性器を見せることはなかったのですが、まさか妻には、触れさせてまでいたとは…。
「どこに当たってた?」
「…足とか…」
「それだけ?」
「…少し…お尻とか…」
この男は、自分によく見えないのをいいことに、夫の目の前で、裸の妻に、夫のより大きなサイズの性器をこすりつけていたのです。
「…どんな感じだった…?」
「なんか…。
少し動いてたし、ヌルってしたかも…」
そのときに気づきました。
まさか…!?湯船に入っていた、男の右手は…!?
「え…。
もしかして、何か出したりとか…してた…!?」
すると妻は慌てて言いました。
「えっ…!?そんなの…分からない…!」
しかしその表情が確かに曇ったことを、自分は見逃しませんでした。
まさか…。
こすりつけるだけでなく…。
自分がミジメに足を触っているあいだに…。
男は、妻の尻を触りながら…。
まるで犬がナワバリにマーキングをするように。
電柱にオシッコをするように…。
格下のオスに、立場を分からせるかのように。
妻の裸に向かって、自分の精液を出し、こすりつけていたかもしれないのです…。
「あ…でも、気のせいかもしれないから…」
なぐさめるかのように妻は言います。
そのときに、自分の性器をチラッと見ました。
もちろんそんなつもりはない…と信じたいですが…。
性器を比較されているかのような気持ちになりました。
「私が全裸のままマーキングされちゃったチ●ポは、もっと大きかったよ」
そんな言葉が、心の中に響いた気がしました。